精神科の現実

ヤフーより抜粋(リンク先

「認知症と決めつけられ、牢屋のような保護室に2日間監禁」「“薬漬け”で歩行困難に」告発者が訴える《壮絶な“誤認入院”の実態》 から続く

【画像】宇都宮病院の医師が記した《家庭内の問題で》《強制的に当院に入院》

「病院から処方される薬の影響で、徐々に体調がおかしくなっていきました。目が見えづらくなって、次に手が震え始め、次第に歩くのも大変になり、便座に座ると手すりにつかまらないと立てなくなりました。よだれが垂れるので手で何度もぬぐっていましたし、失禁もしてしまいました」

 2018年12月、富山市に住む江口實さん(80)は突然現れた民間救急会社の男4人に車に押し込まれ、報徳会宇都宮病院に連れて行かれる。そこでは心当たりのない症状を上げられ、「認知症」という診断を受けた。その後1カ月以上もの期間、強制的に入院させられたという。

 2022年2月8日、江口さんは本来飲む必要のない薬の影響とみられる症状が強く出たと主張し、病院と担当医師らに損害賠償を求めて提訴した。強制的に長期間入院させたのは監禁罪にあたるとして、宇都宮地検に刑事告訴もしている。

 江口さんにとっては降って湧いたような強制入院だったが、後に事前に長男が同病院に依頼していたことが発覚。長男夫婦とはかねてから金銭トラブルを抱えていたという。

「長男夫婦は私を認知症だと仕立て、借金の責任を私に押し付けて、自己破産でもさせようとしたのかもしれません。宇都宮病院はその長男夫婦側の言い分だけを聞いて、認知症ではない私を無理矢理入院させて、強い薬を飲ませて身体をおかしくさせたんです」

宇都宮病院の“壮絶な過去”「患者を鉄パイプで暴行」

 確かに取材での江口さんは、過去の記憶もはっきりしており、受け答えもしっかりしていた。素人目では認知症とは思えなかった。かといって、患者の人権を無視した強制入院を行う病院があるとはにわかには信じがたい。

 そこで報徳会宇都宮病院について周辺取材をしたところ、ある精神科に詳しい専門家がこう話したのだ。

「報徳会宇都宮病院は老人ホームや看護学校なども傘下にある大病院です。一方で、精神科では非常に有名な不祥事を起こし、精神医療に携わる人間であれば誰でもその“悪名”を聞いたことがあるはずです」

 宇都宮病院は1961年3月に社主である石川文之進氏(96)が開業。そしてその“悪名”が世間に轟いたのは1984年3月のことだった。

 同病院の精神病棟の患者2名が看護師から鉄パイプや素手などによって暴行を受け、死亡していたことが判明したのだ。事件は前年に起きていたが、閉鎖病棟の性質上、明るみには出ていなかった。しかし朝日新聞が関係者の証言によってスクープし、栃木県警が傷害致死容疑で捜査を開始した。
「医療不要」患者が20年間入院、無許可の脳摘出解剖…

 捜査の過程で法人税の脱税や、無資格の患者が注射などの医療行為を行っていたこと、さらには当時の院長である石川氏自らゴルフクラブで患者の頭などを殴っていたことなどが次々に判明し、大きな騒動となったのだ。

 その後に栃木県衛生指導部が実地調査を開始すると、酒に酔っただけで20年間も入院させられた「医療不要」患者の存在も明らかになった。国際的な批判も浴び1987年に行われた入院制度改革のきっかけともなった大事件だ。強制入院である医療保護入院に必要な精神保健指定医の制度も明確化された。

 石川氏には無資格の患者や看護師に医療行為をさせたり、保健所の許可なしに死亡した患者の脳の摘出解剖をしたりした罪などで懲役8月、罰金30万円の実刑判決が下り、医業停止の処分も受けた。しかし90歳を過ぎたいまも報徳会のトップに君臨しており、現場にも出ている。今回のケースでも江口さんを直接診察しているが、石川氏には患者の意志に関係なく入院させる医療保護入院を決める指定医の資格はない。

 江口さんのケースが医療不要の患者を入院させたと裁判所により認定された場合、事件発覚から約30年にわたって、宇都宮病院の悪しき体質が改善されていないことになる。

 文春オンライン取材班が、江口さんの主張について宇都宮病院に文書で事実確認を行った。
宇都宮病院に事実確認。その見解は…

 以下のように回答した。

「江口氏についてのご質問の件については、訴状等を拝見していないのでご質問に対して現段階での当院の見解を発表できるわけではありませんが、当院において不当入院という事実はございません、直接取材につきましては、訴訟の進行を見ながら判断させていただきたと存じます」

 一方、江口さんの支援者は取材に対し、こう主張している。

「病院側としては収入が増えることから、認知症でなくとも、認知症と診断し医療保護として入院が必要のない患者を入院させているケースはほかにもあると推察されるが、診察室という密室の場で何があったか調べることは難しく、病院による認知症の判断を裁判で覆すのは難しい。ただ、今回のケースは客観的に認知症でないことを示すカルテなどの証拠があるため、江口氏の主張は法的に受け入れられると確信している」

 果たして江口さんは認知症だったのか、そして強制入院や薬の処方は適正な範囲で行われたことだったのか。今後、法廷の場で争われることになる見込みだ。

「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班)

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